新型コロナウイルスへの政府の対策は、いろいろな面でその遅さ、まずさなど非常に強い避難を浴びています。私も例えば、何故PCR検査数がこれほどまでに少ないのか、ずっと疑問に思っていました。PCR検査数が増えない理由を、いろんなところでいろいろな人が解説していましたが、政府は対策をいっこうに実行しようとはしていないように見えました。政府が無能なのか、政府の高邁な戦略なのか、とても不思議でした。一体なんだったんでしょうか。
以下に、今になって思う「多分こうだったんじゃないか劇場」を書きます。このブログでは今まで、データに基づく話題を中心に書いてきましたが、この記事では対策・戦略についてかくことになります。なお、このシナリオには何の根拠もありません。又、登場人物にインタビューしたわけでもありませんし、了承も得ていません。では始めます。
「多分こうだったんじゃないか劇場」
2020年1月
中国武漢での未知の感染症が急速に拡大中との情報が日本にも伝わってきた。
2020年2月
チャーター機で帰国した陽性者への対応、新型コロナウイルス感染者のいるクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号への対応が大きな話題になっていた。国内での感染者が徐々に徐々に増えていた。
2020年2月
横浜の片隅で、どっこいしょっと街歩きのメンバーが今後の街歩きをどうするか頭を痛めていた。
その頃、2020年2月下旬、新型コロナウイルス厚生労働省対策本部の下にスラスター対策班が設置された、物語はそこから始まる。
新型コロナウイルスについては、それまでの症例から、大多数の感染者はあまり他の人に伝染(うつ)していないが、一部の人(全体の2割ほど)が多数の人に伝染しているらしいことが分かってきていた。厚労省はこれをクラスターと呼び、対策本部の下にクラスター対策班を設置した。感染症の研究者押谷教授、感染症数理学者の西浦教授等が呼び集められた。
メンバーは、日本における新規の感染症に対する検査体制がまったく体をなしていないこと、未知の感染症に対応できる病院が極めて少ないことに愕然とした。
武器がない、弾がないというなかで、どのような対策がありえるのだろうか、考えた。
1.経済を優先し何も対策せず感染を拡大させ集団免疫のできるのを待つか、
2.経済的な打撃は極めて大きいがロックダウンして感染を抑えるか、
3.徹底的に検査をして陽性者は隔離し感染拡大を抑えるか、
4.経済活動はできるだけ保ちながら医療崩壊を起こさず死者の発生をできるだけ抑えるぎりぎりの線を狙うか。
1.は、極めて多数の死者が出る。人の死に敏感な日本人には受け入れられないだろう。
2.は、日本の法制上、実施不可能だ。
3.は、日本にはそんなことができるようなPCR検査体制はできていない。よしんば検査体制があったとしても、医療体制が整っていない。
残るは4.しかない。これは、国民に不要不急の外出自粛をお願いし、感染拡大を緩やかにし、そのピークをできるだけ後ろにずらし、その間に医療体制をなんとか維持拡大し、医療崩壊を避けようとする考え。下の図だ。しかし、その具体的方法は見つかるのか。
当時、この新型コロナウイルスに関する情報が極めて少なかったが、その性質は少しづつ分かってきていた。例えば、このウイルスは、どういうわけかクラスターを作りやすい傾向がある。無症状の陽性者がかなりの数存在する。多くの人は軽症で済んでしまう。しかし、一定の割合で重篤化し死亡に至るケースがある。高齢者、基礎疾患のある人は特に重篤化しやすい。
なお、クラスターのことだが、一部の人が多数の人に伝染すということは、人によって感染力が強い人と弱い人がいる、ということではない。感染しやすい場所と感染しづらい場所がある、ということなので注意が必要だ。
さて、そうならば、クラスターに注目し、重篤になりそうな人だけを検査で拾い上げ、十分な医療を施すことにしよう。無症状者・軽症者が市中に潜んでいてもしょうがない。全員見つけるのは不可能なのだから。重症者を集中的に治療できれば医療崩壊を起こさず、死者も最小限にできる。感染の初期の頃はPCR検査がある程度可能で陽性者の追跡ができたとしても、感染が進むと、市中には陽性なのに見つけられていない人が蔓延し、追跡が不可能になる。又、日本の脆弱な医療体制では、PCR検査を行い患者をたくさん見つけても医療崩壊を起こすだけだ。しょうがない。しばらくは、PCR検査数を絞りながら対処し、感染者が増えたら増えたでまた考え直そう。
さて、感染者拡大傾向に伴い、首相は突如、3月2日からの一斉休校を要請した。何故最初に休校なんだ?どのような戦略の中での休校なのか言ってほしい、と私ARAは苛ついていた。休校要請の宣言で、国内の自粛ムードが広がった。私達の街歩きも3月から中止にした。
引き締めの効果か、3月に入り、日本での感染拡大は横ばい傾向だった。ところが、世界では、イタリアが爆発的な感染拡大をしていた。信じられないくらいの死者数を出していた。それを追うように、欧州、米国で凄まじい感染拡大が始まった。そんな中、3月中旬、我が街歩きチームのSSさん夫妻が米国から帰国した。米国に留まるか日本に帰るか相当悩んだ後の決断だった。
楽観ムードが流れかけていた日本でも、3月下旬感染者の増大が見え始めた。小池都知事のロックダウン発言を発端に日本全体で大騒ぎになりだした。
その間、対策班は焦っていた。放っておくと感染者が指数関数的に増えていくことは目に見えている。欧州が証明している。日本での増加状況から、もうクラスター潰しだけでは間に合わなくなる。国は学校閉鎖以外、これといった対策を打ち出しそうにない。逆に国からは経済活動停止することは絶対ダメと言われているし(真実は不明)、国民の行動自粛をお願いし接触感染をできるだけ減らすしかない。では、国民にはどのような形でお願いしようか。具体的な数値を出さないと、曖昧だと非難されるだけだ。
実績があって使えそうな数式としては、実効再生産数Reが知られている。これは、新規感染者数の増減傾向を表すよい数値なのだが、国民にRe=0.5にしろ、とかいっても国民は何をすればよいのか分からないだろう。どうしようか。
では、こういうのはどうだ。何も感染防止対策をしない場合の感染拡大状態を基本再生産数R0で表し、実効再生産数Reを
Re=(1-p)R0
とする。ここで、pは人との接触の機会を削減する割合(接触削減率)としよう。ここでR0とpはどのように決めよう。そうだ、R0としてドイツで使われている2.5を使おう。WHOの仮定してる範囲にも収まっているし。このRe=2.5は、いわゆる指数関数的なスピードで感染拡大をしている状態を表している。
根拠はさておき、何よりも2.5は使いやすい数字だぞ。接触削減率pを0.6にするとReは1になり、感染拡大は止まるが減りもしない。これでは効果がないと国民に説明できる。しかし、接触削減率pを0.8にするとReは0.5になり、1ヶ月もあれば新規感染者を大幅に減らせるぞ。これは分かりやすい。
だけど、接触削減率って何なんだ?実際の活動に則した定義ができるのか?できない。まあ、それでいいんじゃないか。理屈付は後で考えようや。誰かが良いアイデアを出してくれるだろう。
このようにして、接触削減率の目標は8割となった。
さて、国は接触削減率を表明するのだが、首相は接触削減率を7割、できれば8割となるよう自粛してほしい、と言った。自民党幹事長は8割なんてできるわけがない、と言った。この街歩きメンバーのARAも、接触削減率なんていう訳のわからない数字を持ち出しやがって、と一人さびしく唸っていた。
クラスター対策班のメンバーは怒った。7割なんて言っていない。でもいいか。どうせ、最初から接触削減率の正確な定義なんて無いのだから。
その後しばらくして、首相も接触削減8割というようになった。メディアでは、位置情報サービスを活用し繁華街での人の流れを数値化したデータを見せ、感染拡大の前と比べてどの程度人出が減ったかを示し、その数値があたかも目標の接触削減率8割の達成/非達成を表すがごとき報道をしてくれるようになった。賢い人がいるもんだ。そうして、なんと、接触機会の8割削減は国民の間に定着した。その間、PCR検査数がいっこうに増えなかったため、政府は避難を浴び続けた。
3月下旬の3連休の頃の気の緩みからか、4月に入っても感染者数は増加し続けた。4月7日、政府は7都道府県に対し緊急事態宣言を出し、16日に全県に拡大された。それが功を奏したか、国民の努力が報われ、4月中旬には新規感染者数が横ばいになりはじめそして遂には減少し始めた。
コロナ対策班のメンバーは一先ずホッとした。PCR検査をなかなか受けられず苦しんだ人、亡くなった人も多くいたが、それでも死者数は欧米各国に比べ圧倒的に少ない。しかし、新型コロナウイルスは未だまだ分からないことが多すぎる。今後来るであろう第2波、第3波への対応を考えねばならない。気が重い。
政府も安堵した。ほぼ筋書き通りだった。医療体制も崩壊の寸前でなんとかなっているようだ。PCR検査数は徐々に増えた。その間、医療体制も徐々に整ってきた。なにより死者数が少ないこと、これは自慢できるぞ。ロックダウンができなかったのはむしろよかった。経済的には、国民一人当たり10万円支給、他いくつかの支援策を行うことにはなったが、営業自粛要請は知事達が行ったし、補償は最小限で済みそうだ。今回発生した大きな費用は赤字国債だ。ツケは次世代の納税者に渡るだけだ。
さて、日本の対コロナ戦略が有効だったことをどうやって宣伝しようか。先ずは目立っている知事たちが邪魔だなあ。出口戦略とかって騒いでいる若手知事をちょっとたしなめておこう。あれ、失敗したかな?
厚労大臣が、国会でPCR検査数の少なさについて質問されて、PCR検査の基準は「37.5度以上」などとしていたというのは「誤解」だ、と答弁して又責められた。が、陳謝しておいた。
さあ、この後の第2波、第3波に備えて体制つくりをしておかなくちゃ。失敗したらまた何を言われるか分かったもんじゃない。まず、外出自粛や3密、社会的距離は使い古したからこれからは「新しい生活様式」でいこう。とりあえず、使えそうな薬は承認しておこう。後はワクチンの完成を待とう。検査体制・医療体制は少しづつよくなっているから、下の図のような感じだな。それから、えーと、何をしたらいいんだ?
ということがあったとかなかったとか。
< コロナ関連記事 >
このブログに書いたコロナ関連の記事は、以下のとおりです。
- 新型コロナウイルスへの対応
- 新型コロナウイルスへの対応 その5 「政府のコロナ対応戦略 -たぶんこうだったんじゃないか劇場-」
- 新型コロナウイルスへの対応 その6 「私達の出口戦略」
- 新型コロナウイルスへの対応 その7 「新しい生活様式」
- 新型コロナウイルスへの対応 その8 「人出のデータから今後の感染者数の傾向を予想する方法」
また、私の別ブログに書いたコロナ関連記事は、以下のとおりです。