オルバースのパラドックス 「夜空は何故暗いのか」

最近読んだ、松原隆彦氏の「宇宙は無限か有限か」(光文社新書)に「オルバースのパラドックス」の話題が書かれていました。

オルバースのパラドックスとは、宇宙がめちゃくちゃ広い場合、無限に遠くにある星からの光がどんどん届くため、夜空が明るくなって輝くはずである。それなのに、何故、夜空は暗いのか、というパラドックスです。

松原氏の説明は、とてもわかり易く、又、具体的な数値も使っています。その数値を見て、それをちょっと借用し自分なりに計算してみたくなりましたので、このブログを書きました。

松原氏の著書では、現在の宇宙に関する知見に合わせ、宇宙の年齢が138億年と有限なので、宇宙が明るく光ることはないのだ、という結論になっています。

それでは、宇宙のサイズが無限で、宇宙の年齢も無限だとどうなるか。ということをこの記事で書いてみます。今まで、星空に関するデータを持ち合わせていなかったため(勉強していなかったため)具体的な数値で納得できる結論を持ってはいなかったのですが、松原氏の示した値を借用して夜空の明るさを概算し、実感してみました。

オルバースのパラドックスとは

ある星から出る光の強さは距離の2乗に反比例して弱くなります。ここで、星が宇宙全体に一様に散らばっているものとすると、地球からある距離におけるある視野角に収まる面積は、距離の2乗に比例して増えるため、その範囲の中の星の数は距離の2乗で増えます。従って、星の光が弱くなる程度と、星の数が増える程度は打ち消し合うことになりますので、地球からの距離にかかわらず、その辺りの距離の空間ではほぼ同じ明るさになることを示しています。そうすると、遠くが見えれば見えるほど、空は明るくなるはずです。それなのに、夜の星空は明るく輝くというような状況ではありません。これを、オルバースのパラドックスと呼ぶそうです。

「 宇宙は無限か有限か」での説明

松原氏は「 宇宙は無限か有限か」で、空が明るく輝くことのないことを、次のように分かりやすく説明しています。

星の数、明るさ、大きさのデータから、地球から10光年の半径の球面を想定したとき、10光年付近にある星により球面の100兆分の一の面積が光ることになるそうです。この場合、星が半径10光年の球面にある、とイメージするのがよさそうです。ただし、100兆分の一というのは、銀河系の中の地球の近くでの状態です。上述のブログを書いてみる気になった数値というのはこの100兆分の一のことです。

さて、光る範囲は10光年先では100兆分の一、20光年先でも100兆分の一なので地球に届くのは合わせて100兆分の二、と増えます。従って、10光年の100兆倍、つまり1京光年先迄見えると夜空全体が光ることになります。大変大雑把ですが、大体の感覚を掴むための概算です。

地球の年齢は138億年とされていますので、私達の眼には138億年前の光しか届いていませんので、138億/1京の割合(10万分の一程度)以下でしか夜空が光っていないことになります。従って、夜空が明るく輝くことはないことが分かります。

ただし、銀河間には星が殆どありません。光は殆ど銀河内ではなく銀河間を走ります。光が銀河外を通る距離が銀河内を通る距離の1万倍だとすると(下記参照)、夜空全体が光るのは、1京光年先ではなく、1垓光年先程度になりそうですので、さらに4桁少ない範囲しか光らないことになりそうです。数的な記載はありませんが、松原氏もこの事実はきちんと書いています。

宇宙の年齢、サイズなどの条件を変えた場合

上では、宇宙の年齢が138億年だとしています。ここでは、現在の宇宙とは異なる条件で検討してみます。

宇宙の年齢が無限大、サイズも無限大

宇宙の年齢が無限大で、サイズも無限大の場合にはどうなるのでしょうか。ちょっと検討してみます。なお、ここではこの宇宙は膨張もしていない、光の減衰はない、とします。静的な宇宙なので、現実の宇宙像とはかけ離れてしまいますが、考えるだけならいいでしょう。

この先は数式を少し使います。半世紀前に習った級数を思い出しながら書いています。

宇宙に、地球から10光年の距離の球面(半径10光年の球面)を考え、その球の全表面の明るさの和をLとします。星は10光年ごとに飛び飛びに存在していることを無理やりイメージしてください。そうしますと、その2倍の距離(20光年)の球面を明るさは(距離の増大と星数の増大が打ち消し合い)大まかにはやはりLとなります。しかし松原氏によると、10光年の球面では平均的に全表面の100兆分の1が光る部分になるそうです。逆の見方をすると、光る部分の遠方にある星は地球から見えないことになり、それだけの面積の星は隠されることになります。ここで、δ=1/100兆とすると、20光年の球面のうち地球で見える明るさは、L(1-δ)になります。ついでに、30光年の球面からの明るさは、L(1-δ)**2となります。**はべき乗です。星のために隠される領域が少しづつ増えることを意味しています。次に、10光年、20光年、30光年、、、の各球面から届く明るさの和(全明るさ)を求めてみます。

全明るさ=L+L(1-δ)+L(1-δ)**2+L(1-δ)**3+・・+L(1-δ)**n+・・・

となります。変形すると

全明るさ=L ∑(1-δ)**n = L / δ

となります。ただし、∑はnに関する総和(nは0から無限大まで)です。この式から分かることは、δは100兆分の一ですので、空は、10光年先に想定した球面の明るさの100兆倍で光るようです。この明るさはどの程度か、概算してみます。太陽は8.6光年先にあるシリウスの1000億倍のオーダの明るさのようですので、シリウスが平均的な星で、10光年先に星が数個程度しかないとして、半径10光年の球面の明るさはシリウスとだいたい同じとみなしてしまいましょう。そうすると、空は、シリウスの明るさの100兆倍、太陽の1000倍の明るさで輝くことになるようです。とんでもない明るさですね。宇宙の寿命が無限大で静的である、ということはとんでもない結果を導くようです。

ただし、上の計算では、銀河内の星の密度が限りなく続くことを仮定していますが、実際には、銀河と銀河の間では星は非常に少なくなっています。このこと考慮すると、何か異なる結果になるのか、次に検討してみます。

平均的な銀河のサイズが10万光年で、銀河と銀河の間の平均距離が200万光年程度と仮定します。その場合、銀河内を走る距離は、ざっと計算すると、銀河の外を走る距離の1万分の一程度になりそうです。つまり、上の式の全項のうち1万分の一程度しか加算に寄与しないことになりそうです。ところが、星がない、ということは光を遮る効果もありませんので、上の式は何等変更なしにそのまま使えることになります。銀河の有無はあまり影響しない、ということです。無限大というのはなんとも不思議な状態です。

宇宙の寿命が138億年の場合

上で求めたように、太陽はシリウスの1000億倍のオーダの明るさのようです。又、半径10光年の球面の明るさをシリス並みとすると、138億光年というのは10光年の約10億倍ですので、夜空は、太陽の100分の一の明るさで輝くことになりまそうです。しかし、実際には銀河の外を走る割合が多いこと、宇宙が膨張しているために光は赤方偏移を生じエネルギーが低下すること、などを考慮すると、太陽の100分の一より大幅に暗くなるのは確かそうです。ということで、現実の宇宙では、今程度の明るさになるのでしょうか、、、

宇宙に光を妨げるチリがある場合

光を遮るチリがあったとしても、光を受け続けるとエネルギーがたまり、光を発するようになり、長時間の後、エネギーの入出力はバランスするようです。従って、宇宙の寿命が長い場合は光を遮るチリのようなものの影響は無視してもよいようです。ほんとうかなぁ。

それならば、光が散乱すると仮定するとどうなるのでしょう。散乱するということは、(波長にもよりますが)あらゆる方向から来てあらゆる方向に進みそうですので、遮る効果の方が大きいような気がしますが、実際はあちこちに散らばるだけなので影響は無視してもよいことになる、ということでしょうか。

等々、もう少しじっくり考えようとすると頭がこんがらがってきますので、この辺でやめておきます。

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