「宇宙とはなにか」松原武彦(SB新書 2024)
宇宙とはなにか
この本は、タイトル通り「宇宙とは何か」を追求しています。著者は、子供の頃からの疑問がきっかけで今は観測的宇宙論に取り組んでおり、ここでは、「宇宙とは何か」について科学で答えを与えたい、と書いています。
この本の紹介サイトでは、以下のように書いています。
我々が見ている世界は真実か?
この宇宙は特別な存在なのか?
観測の外はどうなっているのか?
そもそも時間とは何か?空間とは何か?
人間はどうして宇宙を知りたいと思うのか?
くめども尽きない謎・疑問の数々を解き明かす
文系でもわかる宇宙論講義。
内容
さて、本書の内容ですが、マルチバース、量子論の解釈問題、微調整問題と人間原理に等、興味を惹く様々な話題について、現在どこまで明らかにされているか、あるいは、真偽の判断がつかない問題が残っている、ということが説明されています。
末尾にこの本の目次を記しておきますが、ここから分かるように非常に沢山の話題が書かれています。その中で、微調整問題と人間原理について印象に残りましたので下にその何が問題とされているか、ということだけ書いておきます。
微調整問題、というのは、自然界のパラメータというのはこの宇宙に生命が誕生するように微調整されているように感じる、つまり、なぜか我々にとって都合のいい値になっているようなのだが、パラメータの値には必然性が見つからないため、いまの物理学では何故なのかを説明できない。そのため、これを「宇宙の微調整問題」と呼ぶのだそうです。私の印象としては、パラメータが何故その値を持っているのか分からないのだし、その値からズレたとしてもどの様な宇宙ができるか分からないのだから、微調整問題とも言えないのではなかろうかと感じます。
人間原理というのは、観測する人間がいるのだから、現在の宇宙が人間が存在できるような状態になっているというのが「弱い人間原理」です。 それに対して、宇宙の法則や定数は人間が生まれるようなものでなくてはならないという考え方が「強い人間原理」です。人間の存在を理由に「だからこうなっている」と説明してますので、論理が逆になっているようです、と著者が書いているのはもっともだと感じます。
著者は、あとがきに以下のように書いています。
いろいろと理論を紹介したのですが「宇宙は何か」の確たる答えをお渡しすることができませんでした。
と。とにかく、そんな簡単な問題ではないようです。それでこそ「宇宙」ですよね。
章立て
この本の目次を下に示します。非常に沢山の話題が書かれています。
はじめに 「宇宙とは何か」の旅へ
第1講 宇宙像の広がり
・地球平面説から球体説へ
・現代に残る地球平面説
・宇宙の形を知るには?
・天動説から地動説へ
・地動説が有利になった理由
・無限の宇宙を考えたブルーノ
・地動説の証拠を見つける
・地球に似た惑星もあるのか?
・恒星が無数にあるのになぜ夜空は暗いのか?
・宇宙には始まりがある
・アインシュタイン登場
・相対性理論が本当だとわかる例
・重力の正体
・時空がゆがんでいる
・無重力状態とは何か?
第2講 宇宙の地平
・そこから先は見えない「ホライズン」
・宇宙の膨張の不思議
・宇宙の「晴れ上がり」
・宇宙マイクロ波背景放射
・星はどのようにできたのか?
・銀河、銀河団、超銀河団
・銀河の未来とダークエネルギー
・星の欠片でできている
・宇宙の大規模構造
・宇宙は有限か無限か?
第3講 ミクロの世界へ
・量子力学の登場
・光は粒子か波か?
・プランク定数
・電子はどこにあるのか?
・シュレーディンガーの猫
・不思議な量子もつれ
・量子コンピュータとは?
・量子論なしでは語れない「宇宙の始まり」
・量子トンネル効果で宇宙が生まれた?
・エクピロティック宇宙論
第4講 マルチバース
・宇宙が一様であるという謎
・インフレーション理論はまだ確立していない
・カオス的インフレーション
・無限に広がる宇宙には、自分も無限にいる?
・ストリング理論がブームに
・10次元
・ランドスケープ宇宙
・ブレーン宇宙
・結局は誰が正しいのか?
・ゲーデルの不完全性定理
・物理学者と数学者
・量子論の解釈問題
・エヴェレットの多世界解釈
・ホィーラーの参加型人間原理
・この世界は真実か?
第5講 微調整問題と人間原理
・奇跡的な宇宙
・測定してはじめて決まる「パラメータ」
・弱い重力
・もしも光速度が遅かったら
・ミクロの世界にあらわれる「プランク定数」
・基本定数から得られるプランク尺度
・ちょうどよい電子・陽子・中性子の質量
・2重水素
・生命に都合のいい水の特殊な性質
・トリプル・アルファ反応
・人間原理の成功例
・単宇宙か多宇宙かで説得力が変わる「強い人間原理」
・次元の数にも微調整が働いている?
・タキオン粒子
・とてつもない精度で調整されている宇宙定数
・何がパラメータの値を決めているのか?
・パラメータは偶然でしかないのか?
第6講 時間と空間
・再び、宇宙とは何か?
・ロケットで未来へ
・時空を超える方法
・タイムパラドックスの解決方法
・分岐する宇宙
・相対性理論と量子論は相性が悪い?
・時空とは何か?
・観測的宇宙論
・宇宙を追うために数学は必要か?