「クオリアはどこからくるのか? 統合情報理論のその先へ」土谷尚嗣(岩波科学ライブラリー 2021)
我々は眼や耳や体中からくる何かを感じていますが、クオリアとはその感覚そのものです。クオリアそのものはあまりにも当たり前すぎるため、そもそもクオリアという概念を掴むこと自体がなかなか難しいこともあるようです。ここでは、クオリアを感じることの意味が分かっているものとして書きます。
さて、そのクオリアですが、研究対象としては、まったく得体のしれないものであり、どのようにアプローチすればよいのか分からず、研究の仕方がまったく検討のつかないものなのですが、この本では、そのクオリアをどのように研究しようとしているか、ということが書かれています。なお、この本ではクオリアとは意識の中身のこととして話を進めているようです。が、意識そのものも定義が難しそうです。
人間あるいは高度な動物には意識がありそうだとして、意識はいつ生まれるのだろうか、という疑問が出てきます。単純に、ニューロン(神経回路網)はスイッチがめちゃめちゃたくさん集まったものと考えると、スイッチ一つあっても意識があるとは思えませんが、その数が増えて複雑になり、つまり、ニューロンが多くなりある程度よりも増えたときに意識が生まれる、という主張もありえます。この本の著者は、統合情報理論に肩入れしており、ニューロンの数が増えただけでは意識にならない、としています。
では、統合情報理論とは何かというと、Wikipediaの説明を使わせてもらうと、「この理論によれば、意識には、情報の多様性・情報の統合という二つの基本的特性があり、ある物理系が意識を持つためには、ネットワーク内部で多様な情報が統合されている必要があるとされる。ネットワーク内部で統合された情報の量は「統合情報量」として定量化され、その量は意識の量に対応しているとされる」のだそうです。
それはともかく、この本を読むと(統合情報理論はちょっと難しいのですが)意識というものの研究の面白さ、そしてワクワク感が伝わってきます。
この本の目次は以下のようになっています。各章の中の節も含まれています。
はじめに
1章 意識って科学の対象なの? クオリアって何?
意識の問題は面白い⁉/クオリアって一体何?/意識を研究するとはどういうことか?/意識研究のインパクト/意識の研究の難しさ/動物・植物・ロボットに意識はあるのか?
2章 意識はどうすれば研究できるのか?
意識やクオリアにはどういう特徴がある?/これまでのアプローチ――心理物理学と脳科学/脳に損傷を受けると私たちの意識やクオリアはどうなるの?/患者の報告・行動・脳活動――すべてがそろった総合的な証拠が最強/盲視患者の詳しい研究/行動や脳活動で明らかになる盲視の証拠/サルも盲視を経験するなんてことがある?/サルが盲視であると証明できるか?/無意識と意識を区別する方法なんてある?
3章 目から脳へ、脳から視覚意識へ
目の構造はどのように視覚意識をカタチづけるのか?/網膜で受けた光の情報はどのように脳に伝わるのか?/ニューロンの守備範囲――「受容野」とは?/目からの情報を受け取る脳部位――一次視覚野(V1)とは?
4章 意識の変化に合わせて変わる脳活動
意識に伴って変わる神経活動(NCC)とは何か?/NCCを見つけるためのパワフルな実験――両眼視野闘争/サルでの両眼視野闘争の研究
5章 意識と注意
注意とは何か?/意識と注意はどう違う? それとも同じ?/意識と注意は別々に操作できるか?/意識と注意は違うなんていう証拠はあるの?/注意のことを考えた上で、もう一度問い直す――クオリアって何もの?
6章 意識の統合情報理論
意識の理論は必要か?/意識の理論があると何が嬉しいの?/統合情報理論/統合情報理論が重要視する意識の5つの特徴/意識の情報性/意識の統合性/統合情報量とは何か?/意識の排他性/統合情報理論に基づく意識メーター/意識レベルの計測/統合情報量の計算は可能か?/統合情報理論によって脳に損傷を受けた患者の意識を説明できる?/意識の境界は計算できるのか?/分断脳患者の意識と行動/統合情報理論は分断脳患者をどう説明するか?
7章 意識研究の最前線
統合情報理論はクオリア問題にどう答えるの?/これまでのアプローチの限界とそれを乗り越える新しいパラダイムとは?/クオリア構造と情報構造の関係性を明らかにする!/情報構造を可視化する/クオリア構造を明らかにするために、大規模にクオリア同士の「関係性」を測る!/クオリア構造アプローチで、私とあなたの青クオリアは同じかどうかわかるか?/クオリア構造と情報構造の関係性を明らかにする利点/視覚と聴覚のつなぎ変え実験/意識研究と社会の関わり
おわりに
参考文献
