「脅威の量子コンピュータ 宇宙最強マシンへの挑戦」藤井啓祐(岩波科学ライブラリ 2019第二刷)

この本は、ある程度量子力学の知識があることを前提とし、量子コンピュータの全貌を把握できるようにさせよう、というもののようです。従って量子コンピュータの何たるかを知るには、この本は非常にためになります。

ある程度量子力学の知識が必要と書いたのは、例えば、肝になる理論である「量子もつれ」を説明するところでの説明は、あらかじめ知識がないと図の言わんとするところが分からないだろうな、というようなところがあることです。そうはいっても、最近の量子コンピュータの状況の分かることがこの本の何よりの価値だと思われます。

量子コンピュータを実用化に近づけるためにはいつくものブレイクスルーが必要なのですが、この本では、それが歴史を追って書いてあることです。以下に、今までのブレークスルーのいくつかの例を書きます。

<量子コンピュータで有効になるアルゴリズムが見つかったこと>

現在のデジタルコンピュータにおける処理を量子コンピュータで実行すると早くなる、というようなものではありません。当初はどのような場合に量子コンピュータが有利になるか分かりませんでした。しかし 90 年代に入り、当時ベル研究所にいた MIT の数学者ピーター・ショアが、素因数分解という誰でもよく知っている問題について指数関数的に高速に答えを見つけ出す量子アルゴリズムを見つけたのがきっかけに、量子コンピュータのアルゴリズムの研究が進み、最近では、様々な量子コンピュータのためのアルゴリズムが発見されているのだそうです。

<量子誤り訂正>

現在のデジタルコンピュータにおてはノイズの問題は重要ですが、量子コンピュータにおいてはそれ以上にノイズの問題は深刻でした。当初、量子コンピュータではデコヒーレンスの問題が深刻すぎて量子コンピュータの高速性は机上の空論なのではないかと思われたようです。しかし、ショアーが量子誤り訂正符号を見つけ出したため、一気に量子コンピュータの実現可能性が高まりました。

<その他様々な進歩>

量子アニーリングという、量子的なゆらぎを用いることによって、組合せ最適化問題を近似的に解くヒューリスティック(経験的手法)な方法が見つかったり、量子誤り訂正の条件を満たすレバルの超低雑音の超伝導量子ビットが作られたり、大きな進歩がいくつもなされているようです。

この本の目次は以下のようになっています。

はじめに
第Ⅰ部 物理学とコンピュータの歴史
 1章 量子力学の誕生
 古典物理学の限界/電子の奇妙なふるまい/物質(粒子)と波の統一/量子の性質
 2章 コンピュータと物理法則
 コンピュータの父バベッジ/アナログとデジタル/チューリングマシンの登場/情報科学の発展/デジタルコンピュータの発展/ムーアの法則とその限界
 3章 量子コンピュータの夜明け前
 情報科学と物理学の再会/計算にエネルギーは必要か?/古典万能計算/量子力学の可逆性に着目/量子コンピュータの登場
第Ⅱ部 量子コンピュータの仕組み
 4章 量子情報と量子ビット
 量子の重ね合わせ/量子の情報を数値化する/量子ビット/エンタングルメント/神はサイコロを振る/パラドックスから応用へ/様々な量子ビット
 5章 量子コンピュータのからくり
 量子コンピュータへの拡張/たくさんの量子ビット/量子ビットを古典コンピュータで表現すると?/量子力学で古典コンピュータを理解し直す/0と1だけの世界から解き放たれたコンピュータ/並列性と干渉/素因数分解問題/ショアの素因数分解/量子ビットのいらない量子アルゴリズム
 6章 量子とノイズのせめぎ合い
 エラーとの戦い/量子ビットはノイズに弱い/量子情報はコピーできない/アナログコンピュータ/エンタングルメントで戦え/第一次ブームと停滞期/実現への壁
 7章 ブレイクスルー
 ヒントはエキゾチックな物質に/量子アニーリング/ギークたちによる究極のエンジニアリング/巨人たちが動く
第Ⅲ部 量子コンピュータの挑戦
 8章 量子超越をめざして
 極限的に複雑な世界へ/計算の複雑さの測り方/物理現象の複雑性/量子超越への道筋/古典コンピュータとの戦い/グーグルの量子超越/自然を検証することの難しさ
 9章 量子コンピュータはスパコンに勝てるのか?
 NISQはノイズとの戦い/量子古典ハイブリッドアルゴリズム/量子コンピュータと人工知能/究極的な困難さへの挑戦
 10章 宇宙をハッキングする
 量子コンピュータがもたらす未来/量子コンピュータは宇宙の箱庭/宇宙をハックする/さいごに――量子の挑戦

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