「新アジア仏教史02インドⅡ仏教の形成と展開」奈良康明他編(佼成出版社 電子書籍版 2018)
この巻は、西洋社会で仏教が再発見される過程、原始仏教の誕生、部派仏教と大乗仏教の成立、そして密教の成立が説明されています。目次は以下のとおりです。
第1章 近代仏教学の形成と展開
第2章 原始仏教の世界
第3章 仏教教団の展開
第4章 大乗教団のなぞ
第5章 密教の出現と展開
第6章 造形と仏教
第7章 近代から現代へ
<仏教>の再発見
第1章では、先ず、西洋社会でどのようにして<仏教>が発見され研究されるようになったか、が書かれています。近世、仏教はアジア各地に広がっていたのですが、西洋社会の側からみて、チベット仏教、パーリ仏教(スリランカ)、中国仏教が順に見つかったのだそうです。19世紀になるまで、仏教はいずれの国においても地域宗教(その地域に昔から伝わる宗教)だったため、古代インドで生まれた宗教だとはなかなか理解されなかったのも無理はありません。仏教徒は自分の信仰がインド生まれの仏教だとは認識していませんでした。
各地の仏教では、神話的なお話しも伝わっていたのですが、これら説話から区別され、ブッダは神ではなく歴史上の人物と比定されるのに時間がかかりました。その中で、いわゆる大乗仏教は、中央アジアから東アジアに展開し歪んだ、とされたようです。一方、スリランカや東南アジアのテーラヴァーダ仏教は、輝きは無いが本来の仏教に近いとみなされました。
日本においては、明治時代の学界では仏教学は西洋からもたらされ、外遊経験者がリードしました。また、研究者を現実の仏教から遠ざけることにもなったようです。そして、現在の仏教国の仏教は「堕落した世俗的な捏造物」としてほとんど研究の対象にならなかった歴史があり、文献中心の研究だった、ということです。
仏教の誕生と展開
第2章では、原始仏教の時代が書かれています。仏教修行者の生活を箇条書きします。
修行者は、物品に関しては無所有。衣類、食べ物についてはよく書かれているとおり。住まいは、洞窟や林など人里離れたところ。時代が進むと小屋や庵などの住居を建て住むようになった。最初は一人、時代が進むと集団で。僧院の形成。寄進による。サンガの成立。集団化と定住化。仏教教団の生成。組織や運営の確立。律の体系ができる。
そして、原始仏教の思想の特徴についての記述が続きます。
第3章では、仏教教団のどのように創られ、どのように展開したかが書かれています。
ブッダの初転法輪から、教団が少しづつ大きくなり、地域も広がる。ブッダが入滅後、サンガ分裂(根本分裂)、分裂の原因は、戒律の違い、ブッダ観(ブッダをどのように解釈するか)の違い、などらしい。
その後、大衆部、上座部、説一切有部、正量部等に分裂。
第4章では、大乗仏教の成立と展開について書かれます。
大乗仏教の成立ははっきりしないようだ。が、大乗仏教が教団化していく様子を書いている。ブッダを次第に超人化、神格化し、悟りを目指す修行者を菩薩と呼ぶようになる。菩薩の複数化、菩薩の普通名詞化、ブッダの普通名詞化がすすむ。そして、誰でも菩薩になれる、ブッダになれる、と進む。大乗非仏説を生む。ところで、仏陀の教えは人間的な生を苦である、としたため、人間的な生をもっとポジティブなものにしたいという思いが生じるのは自然といえる。それが大乗仏教の発生につながる。又、更には密教につながる。
第5章では、密教の出現と展開が書かれます。
密教とは「秘密の仏教」の意味。インド、チベットで発展し、経典は多量に渡る。瞑想を伴う儀礼的実践、その目的や功徳、現世利益的なものから超自然的な力の獲得迄説かれる。シバ経との関係が濃く、既存の仏教との軋轢も生まれたようだ。しかし、密教徒は、密教を、声聞乗、独覚乗、大乗等の顕経よりも優れた教え、と位置づけていた。中期密教の代表的経典は「大日経」、「金剛頂経」。ここでは、儀礼の目的・到達点を悟りの獲得としている。後期密教経典では、性的な実践、不浄物等の摂取といったことが表面に現れるようになった。
