「資本主義全史」的場昭弘(SBクリエイティブ 2022)
この本で著者は、資本主義の変遷をたどり、資本主義の本質をつかみ、予測不可能な未来を切り開く、と言っています。資本主義の誕生から終焉までを書いており、資本主義が、西欧、西欧以外を含め、如何に暴力的に自国のあるいは他国の人々を苦しめてきたかが表されています。著者はマルクス経済学者とのことですが、史的唯物論への言及はなく、あくまでも資本あるいは資本主義が如何に世界に災いをもたらしているか、ということを書いています。
資本主義の歴史
この本では、資本主義の歴史がたっぷりと書いてあります。その終わりに近い部分の趣旨は以下のような感じでしょうか。
世界は今資本主義に席巻されている。資本主義のもと、再現のない利益の追求で、さまざまな対立が起き、その解決として戦争に至っている。又、資本主義には残酷な支配と搾取が伴う傾向があり、文明を進歩させそれと同時に文明を破壊する。更に、資本主義は無限に続く経済成長を当然のこととみなし、物的な豊かさを生み出すと同時に環境破壊をもたらす。アジア、アフリカの独立国の多くは今も不安定な状態。経済の不安定が政治の不安定を作り出しており、これらの地域への援助は債務を増やすだけで経済発展にはつながっていない。
又、近年の状況として、新自由主義の流れがある。新自由主義とは経済的自由を優先するがその代償として政治的不自由と法的規制が押し付けられることに特徴がある。企業は民営化、大学への統制や監視、法的な自由の規制は強化する、という傾向にある。これは、フリードマンが主張し、レーガン大統領、サッチャー首相等がとった経済政策で、日本では小泉首相が推進した。新自由主義では、福祉や平等主義を粉砕し、力あるもののみが支配する。
レーガンがやろうとしたのは、強いアメリカの再生だった。強いアメリカは、世界中の資本を集め、その資金を投資し、最先端の研究開発を行い、それと同時にさまざまな国家に規制を撤廃させ、資本の移動を自由にし、新しい分野への投資を拡大する。税金を安くし、人々の消費と投資を拡大することで、アメリカ経済を浮揚させようとした。
著者は、ヨーロッパについても上と同様、資本主義の歴史を述べています。そして、資本主義のこれからについては以下のように述べています。
資本主義の将来
先進資本主義国では、中間層の没落、経済格差の問題、資本主義の将来に不安を感じる人が増えている。再び社会主義的なものを求める運動。かつての社会主義や共産主義ではない、資本主義の後に来る新しいものに向かった運動のたかまりがあるのだろうか。
一方、中国を中心としたアジア型資本主義の可能性も考えられる。これは、西欧からは非民主的全体主義的資本主義、と見られている。現在、アジアの経済的躍進は確かであり、これからは中国とインドの時代になるのではないか。その中で、資本主義はどのように変わっていくか。
この本には、以上のようなことが書かれています。この本を読んで、資本主義とはなんと罪作りな邪悪な制度なのか、という思いにかられます。資本主義の将来については、著者は、西欧型資本主義には見切りをつけ、中国をアジア型資本主義として期待を寄せているように見えます。正直、なにかまともな制度はないのか?と思ってしまいます。
この本の目次
はじめに
資本主義に関する人物と主な出来事
序章 資本主義とは何か
第1章 資本主義という社会がそれまでの社会とどう違うか
第2章 資本主義の始まり──19世紀のヨーロッパ
第3章 産業資本主義から金融資本主義への移行
第4章 戦後の経済発展と冷戦構造──資本主義対社会主義
第5章 資本主義の勝利へ──グローバリゼーションの時代
第6章 暴走する資本主義──ソ連・東欧の崩壊から金融資本主義へ
第7章 資本主義の揺らぎ──リーマンショック後の世界
終章 資本主義の後に来るもの