「人体 600万年史 上/下」D.E.リーバーマン(ハヤカワ・ノンフィクション文庫 2017)

2013年に英語版、日本では2015年に単行本として出版、2017年に文庫版出版されています。

この本の目次

はじめに
 1章 序論―人間は何に適応しているのか
第1部 サルとヒト
 2章 直立する類人猿―私たちはいかにして二足歩行者となったか
 3章 食事しだい―アウストラロピテクスはいかにして私たちを果実離れさせたか
 4章 最初の狩猟採集民―現生人類に近いホモ属の身体はいかにして進化したか
 5章 氷河期のエネルギー―私たちはいかにして大きな脳と、ゆっくり成長する大きな太った身体を進化させたか
 6章 きわめて文化的な種―現生人類はいかにして脳と筋肉の組み合わせで世界中に棲みついたか
第2部 農業と産業革命
 7章 進歩とミスマッチとディスエボリューション―旧石器時代の身体のままで旧石器時代後の世界に生きていると‐良きにつけ悪しきにつけ‐どうなるか
 8章 失われた楽園?―農民となったことのありがたさと愚かさ
 9章 モダン・タイムス、モダン・ボディ―産業化時代の人間の健康のパラドックス
第3部 現在、そして未来
 10章 過剰の悪循環―なぜエネルギーを摂りすぎると病気になるのか
 11章 廃用性の病―なぜ使わないとなくなってしまうのか
 12章 新しさと快適さの隠れた危険―なぜ日常的なイノベーションが有害なのか
 13章 本当の適者生存―人間の身体にとってのよりよい未来を切り開くため、進化の論理はどのように役立てられるのか

第1部

私が若い頃、半世紀以上前、ヒトが類人猿から別れて進化を始めたのは、脳が大きくなったからか、二足歩行を始めからか、という論争がありました。その頃は未だ考古学的な発見が少なく判断ができなかったようです。しかし、今では、二足歩行が先で、その後に脳が大きくなりだした、ということが明らかになっているようです。

では、人類が二足歩行になった理由は何か、というと、それほど明確な根拠はないようです。著者は、両手が使えると果物などを運ぶのに有利だ、という点はあまり重視されていないようです。最近見たNHKの番組ではこの点が強調されていた記憶があります。この本の解説を書いている山極壽一も、果物を運び共食を始めた、ということを重視しているようです。

二足歩行のメリット・デメリットが説明されています。先ず、不利になる点については、腰痛の問題がよく知られていますが、その他に、走るスピードや木登り能力の低下があります。そのかわり、道具の製作、長距離の走行には有利になるそうです。進化の結果からは、結局有利な点が勝った、といえるようです。

人類は長い間狩猟採集民として生活してきたのですが、狩猟採集民であることをやめて(農業社会へ移行して)からのわずか数千年で生活は相当進歩をしました。でも、この進歩に伴い、私達の身体に様々な弊害をもたらすようになりました。つまり、多くの文化的変化により、私たちの持つ遺伝子と私達を取り巻く環境との相互作用が変わったため、さまざまな健康問題が生じてしましました。一言で言うと、旧石器時代の身体が現代の文化の下での行動や条件に合わないため、様々なミスマッチ病が生じました。農業は、人類全体にとっては恵みだったが、人体にとっては複雑な恵みだった、と著者は述べています。

第2部

ここでは、過剰と不足がテーマになっています。過剰とは、エネルギーの過剰摂取であり、不足とは身体を使わないこと、つまり運動不足です。結局、今の文化的な進化は如何に健康を害しているか、ということを強調しています。そして、著者は、食品業界、薬品業界にかなり手厳しいことを言っています。

解説を書いている山際氏は、「慢性病を予防する手段はある。身体のミスマッチを考慮して、みずからの暮らしを根本から見直す必要がある。本書には、具体的な数値と信頼できる事例が豊富に含まれている」という趣旨のことを書いています。

この本は、人類進化のことを知ることができ、更には、自分の身体、生活を見直す機会になる本です。

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