「視点という教養 世界の見方が変わる7つの対話」深井龍之介、野村高文(イースト・プレス 2022)
現在のように変化の早い時代には、いろいろな視点を持ち、生き方をを主体的に考える必要がある。そのヒントを与えてくれるのが教養である。そのために、教養とは何かを専門家との対談で引き出す、というのがこの本の趣旨のようです。
この本では、二人の著者が、章ごとに異なる人と行った対談を載せています。以下に各章での話題を箇条書します。
第1章 リベラルアーツの力を考える
この章では、二人の著者が教養について語っています。「教養がある」というと、知識をたくさん知っている「物知り」のイメージがありますが、そうではなくて、世の中をあらゆる視点から見ること、多くの視点の教養を身につけなければ時代についていけなくなると言います。そして、章の終わりで、現代は「誰もが世界に対して好奇心を持って生きていい、人類初の時代」だと強調しています。
第2章 物理学:物理学での「直感」を手に入れて、判断力を手に入れろ(北川 拓也 きたがわ・たくや)
物理学は「人間」を扱えるか、社会科学における「理解する」とは、今注目される物理学の新領域といった話題でお話しが進みます。
第3章 文化人類学:感染症も経済も、世の中はすべて文化人類学の研究対象になる(飯嶋 秀治 いいじま・しゅうじ)
文化人類学の手法を紹介しています。フィールドワークなどで調べたことを記述する手法が「エスノグラフィー」なのだそうです。ビジネスの世界でも文化人類学が使われており、「ビジネス・エスノグラフィー」「デザイン・エスノグラフィー」などというそうです。
第4章 仏教学:実は極めて論理的な、仏教の世界へようこそ(松波 龍源 まつなみ・りゅうげん)
大乗仏教では「唯識」と「空の思想」が柱です。仏教では、「私」と「他者」を分けずにセットとして考え、「私」が認識することによって他者が存在するし、他者が存在することによって、「他者でないものとしての私」が確定するからです。認識によってそのように見えているに過ぎない仮の世界で、「私」も他者も物質も、本当は実体がないわけで、そのような真理を言語や概念を介さずに直観的に認識するのが、悟る、ということです。
第5章 歴史学:歴史を学ぶことで「ツッコミ力」を磨け(本郷 和人 ほんごう・かずと)
古文書を読むのは学者に任せて、学者はデータを提供するので、一般の皆さんはそれらを使い、色々な解釈で歴史を語って欲しい。
第6章 宗教学:キリスト教が、世界を変えた理由(橋爪 大三郎 はしづめ・だいさぶろう)
ルターの印刷機のおかげもあり誰もが聖書を読めるようになったのが宗教改革の出発点で、一神教とは、神に頭を下げるが、人には頭を下げない。これが、人格の独立、自尊心の源泉になる。日本では、憲法と民主主義、つまり社会の仕組みそのものへの理解が足りない。そして、自分の頭で社会を作る力が足りない。キリスト教と仏教の共通点・相違点について、似ているのは、両方とも普遍思想であること。違うのは、この世界の向こう側に何があるかということ。キリスト教では、それは神様であり、それに対して仏教は、世界の向こうに(因果)があると考える。つまり、キリスト教では神との対話があり、仏教ではただ覚るだけということになる。
第7章 教育学:現代に再びあらわれた「松下村塾」の実践(鈴木 寛 すずき・かん)
高校の授業で大きな変化が起きている。「現代社会」の代わりに「公共」の授業が始まる。「歴史総合」と「地理総合」も新設される。これまで暗記科目の権化のように思われていた歴史と地理が、考える科目に生まれ変わる。近代の次の社会に必要なのは、ソーシャルベーシックサービス。ベーシック「インカム」ではなく「サービス」。つまりお金ではなく、ものやサービスを現物支給(提供)するのだ。残念なことにこのままでは、日本政府は2030年頃に破綻してしまうと思う。プライマリーバランスを回復させるのはすごく難しい。あとは「コモンズ」といわれるように、所有から共有の発想を取り入れること。
第8章 脳科学:感情の仕組みを脳から読み解く(乾 敏郎 いぬい・としお)
ものが見えるとはどういうことか、というと、外の世界の光景が網膜に像を結び、脳はその網膜像から、外の世界がどうなっているかを推論している。ものが立体的に見えるのはなぜか分からない。感情は、体と深く関係している。脳は内臓につながる自律神経によって、体の状態をコントロールしているが、どうすれば体の状態がよくわかるようになるのか、その1つが瞑想だとわかってきた。脳の中枢から末梢へ信号を発信することを「トップダウン処理」、外の世界のものを受け取って脳へ信号を発することを「ボトムアップ処理」で、 脳は、この2つの信号の誤差を測って、それを最小化するように自動で働いている、という理論がある。予測誤差が大きいと精神疲労やうつ状態になるのかもしれない。他者の感情を理解するメカニズム、ミラーシステムは社会の絆でもある。
