「日本宗教史」末木文美士(岩波新書 2006)

以前、「新アジア仏教史シリーズ」を読んでいたためもあり、この本は復習的な感じで、理解しやすかった、という印象です。なお、著者の末木氏は「新アジア仏教史シリーズ」編者の一人でもあり、これらの本の間で、内容にあまり矛盾はないように感じました。

この本で印象に残ったのは、「古層」をどう扱うか、ということでした。江戸時代の本居宣長等は記紀(古事記、日本書紀)を、儒教や仏教の影響を受けない日本古来の思想を持っている、として非常に重視しました。その後世においても、それを日本古来の独自の思想、つまり「古層」と捉える流れがありました。しかし、著者は、日本古来の「古層」を認めず、それを後世の歴史の中で形成されたものと考えています。この本では、神道は古来不変にあったものではないことを説明しています。

日本では、六世紀終わり~七世紀はじめにかけて初めて文献的な資料が形成されたわけですが、その後、神道と仏教が相まって「古層」が形成されていきます。近世後期以後のナショナリズムの隆盛で、六~七世紀の記紀神話などが見直され、それが、「歴史を貫く古層」として古来不変だったとみなされるようになりました。つまり、記紀神話は仏教とは無縁であり、日本古来のものである、と捉えられていきます。しかし、記紀が七世紀後半から八世紀頃に作られたとすれば、当時非常に強い力のあった仏教の影響が無いなどとは考えられません。実際、日本書紀は唐への留学僧の道慈が関わったと言われているくらいです。つまり、記紀は仏教の影響を受けており、近代になっての「古層」の発見、というのは、近代に都合のよいものを作り出した、ということになります。

この本の目次は以下のようにナタています。

 はじめに 日本宗教史をどう見るか
Ⅰ 仏教の浸透と神々〔古代〕
 一 神々の世界
  1 記紀神話の構造
  2 記紀の時代
 二 神 と 仏
  1 仏教伝来と神々
  2 神仏習合の諸相
 三 複合的信仰の進展
  1 仏教思想の基底
  2 諸信仰の重層
Ⅱ 神仏論の展開〔中世〕
 四 鎌倉仏教の世界
  1 実践思想としての仏教
  2 王法と仏法
 五 神仏と中世の精神
  1 習合神道の理論
  2 中世の思惟と神仏
 六 原理を求めて
  1 神道理論と根源の探究
  2 新仏教の定着と進展
Ⅲ 世俗と宗教〔近世〕
 七 キリシタンと権力者崇拝
  1 キリシタンの衝撃
  2 宗教統制と権力者崇拝
 八 世俗の中の宗教
  1 儒教のイデオロギー
  2 宗教と世俗倫理
 九 神道とナショナリズム
  1 神仏から神儒へ
  2 国学から神道へ
Ⅳ 近代化と宗教〔近代〕
 十 国家神道と諸宗教
  1 神仏分離から国家神道へ
  2 内面の深化
 十一 宗教と社会
  1 民衆宗教の世界
  2 戦争へ向かう時代の中で
 十二 日本宗教の現在
  1 戦後宗教の消長
  2 いま宗教を問い直す
 主要参考文献
 あとがき
 キーワード

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