「遺伝子ー親密なる人類史 上、下」シッダールタ・ムカジー (早川書房 2021)
読んで良かった!これがこの本を読んだときの印象です。この本の記述の特徴的なことは、サイエンスである遺伝子の話題が、身内の遺伝病と絡めて話が進められていくことです。そのため、大変深刻な状況がからまり、サイエンスと病・心の痛みとが密接に関係しあっていることが強く感じられます。
この本では、遺伝学の歴史として、メンデルが発見した遺伝の法則がダーウインの進化論と結びつき遺伝学が発展し始め、遺伝子が発見され、現在では遺伝子の操作が可能になりました。が、それに応じて、新たな差別を生むなど多くの社会問題が生じてきたことが具体的に書かれています。
遺伝に関する科学的理解が深まり人々を苦しみから開放する素晴らしい成果を上げるとともに、優生学や遺伝病スクリーニングや遺伝子治療といった社会的応用も進み、往々にして多くの差別と犠牲者も生んできました。例えば優生学では、生物学的な知見を人間社会に適用しようとしたことで多くの悲劇が生じたことは大勢の人々が理解しているものと思われます。
この本では、生物における遺伝子と表現型の関係はとても複雑だということが強調されます。同じ遺伝子を持っていても、環境や偶然によって体の作り、能力など表現型が変わります。遺伝子の解明は進んではいますが、遺伝子と表現型の関係はわからないことが多すぎます。従って、遺伝子を操作することで疾病を治し、能力改善しようとしたときに、体や脳にどの様な予期せぬ結果が現れるか分かりません。
著者は、この本の全編を通して、遺伝の解明とそこから引き起こされる問題について常に最大限の注意を払うこと、常に問題があり得ることを意識すべきと継承を鳴らしています。遺伝子の研究は、純粋なサイエンスにとどまることができず、社会に大きな影響を与え続けてきており、サイエンスの発展の光と影が絡み合っていることを強調しています。