「イスラエル 人類史上最もやっかいな問題」ダニエル・ソカッチ(NHK出版 2023)
立場
イスラエルに関する問題は、著者が誰かにより、書かれる内容が大幅に変わると思われます。この本の著者は、アメリカのリベラルなユダヤ人コミュニティの出身なのだそうです。著者は、「読者が、本書の内容に賛同することはないかもしれないし、信じることも無いかもしれない」と書き、又、「私が物語を語り、自分の立場を説明したら、読者は自分自身の結論を出せばいい」という表現をしています。
この本を読んでみたところ、リベラルとしての立場は感じられるものの、紛争の始まりからその後の経緯迄、おそらく一方にあまり偏らず、客観的といえる記述がされているのではないかと思いました。今まで不思議だった、何故米国福音派はイスラエルを支持するのか、トランプは何故ネタニヤフを支持するのか、といったような疑問にも納得できそうな説明がありました。
イスラエル拡大か二国家共存か
イスラエル問題については、どうしても、リクード、ネタニヤフが率いている最近の動向が印象に強いため、ユダヤ人達がガザもヨルダン川西岸も暴力的に手に入れようとしているように見えます。しかし、歴史的には、イスラエル拡大と、二カ国共存のフェーズのせめぎあいがあり、常にイスラエルの指導者がパレスチナの消滅を狙っていたわけではないようです。二カ国共存を模索したラビンのような指導者もいて、著者は、そういう人物の出現に期待しているようです。
私個人としては、この土地は、過去の歴史をみても、現在の状況を見ても、イスラエル、パレスチナのいずれかの土地だと決められるようなものではないのですから、二カ国併存しかないような気がしていましたが、著者も共存に期待しているようで、私の希望もそれほどおかしな主張ではないのだと安堵しました。
それにしもて、ネタニヤフ首相やイスラエル政府の政策に反対すると「反ユダヤ主義」と批判する国があります。それが何故反ユダヤ主義なのだろうという素朴な疑問があります。又、その国の大統領は、ガザ地区の人たちを他の場所に移住させる、と言っています。これっていったい何なのだろう。何かが狂ってる。むなしい。という気持ちに度々襲われます。
目次
この本の目次は次のようになっています。
第1部 何が起こっているのか?
1章 ユダヤ人とイスラエル/2章 シオニストの思想/3章 ちょっと待て、ここには人がいる/4章 イギリス人がやってくる/5章 イスラエルとナクバ/6章 追い出された人びと/7章 1950年代/8章 ビッグバン/9章 激動/10章 振り落とす/11章 イスラエルはラビンを待っている/12章 賢明な希望が潰えて/13章 ブルドーザーの最後の不意打ち/14章 民主主義の後退
第2部 イスラエルについて話すのがこれほど難しいのはなぜか?
15章 地図は領土ではない/16章 イスラエルのアラブ系国民/17章 恋物語?/18章 入植地/19章 BDSについて語るときにわれわれが語ること/20章 Aで始まる例の単語/21章 Aで始まるもう一つの単語/22章 中心地の赤い雌牛/23章 希望を持つ理由