「『NEXUS』完全ガイド」小谷地市朗 (セイスケクリエイティブラボ Kindle版 2025)
ハラリの「NEXUS 情報の人類史」を読もうと思ったのですが、ボリュームはあるし、値段も高いし、中古本も未だ高いな、とか思いながらネットをみていて、「『NEXUS』完全ガイド」という本を見つけて、読んでしまいました。禁断の木の実を齧った感じです。正式名称は、「『NEXUS』完全ガイド~ハラリ知性のエッセンスを1時間で学ぶ: AI革命は情報と生命の歴史の必然か?ビジネスパーソンが押さえるべき未来への警告と希望」小谷地市朗著、というようです。
それで、ここでは、ハラリの「NEXUS 情報の人類史」ではなく、「NEXUS 完全ガイド」を読んだ感想を以下に書きます。
「NEXUS 情報の人類史」の構成
「NEXUS 情報の人類史」日本版は、上巻、下巻に分かれており、上巻「人間のネットワーク」では、「石器時代から現代に至るまでの人類の歴史が、情報の流れとネットワークの形成という観点から描かれる。言語の誕生、文字の発明、印刷技術の普及、そしてデジタル革命に至るまでの情報技術の発展が、人間社会にどのような変革をもたらしたかが分析される」そうです。
又、下巻「AI革命」では、「AIの台頭がもたらす社会変革と課題に焦点が当てられる。AIは単なる道具ではなく、自ら情報を解釈し、判断し、行動する行為主体として描かれ、その影響が政治、経済、文化、そして人間の自己理解にまで及ぶことが指摘される」そうです。
AIと人間
ここでは、下巻について少し書きます。
下巻「AI革命」において、ハラリが提示する最も重要な洞察の一つは、AIそのものが本質的に変化すること、と捉えています。つまり、AIは情報を処理する単なる「道具」から、自ら情報を解釈し、判断し、行動する「行為主体(エージェント)」へ変容し、その結果人間と情報の関係が根本的に変わることを意味しているとしています。これは、「情報ネットワークの自律化」であり、人間が情報を完全に制御することが困難になりつつあることを意味します。
そして、ハラリが最も危惧しているのは、AIが「監視と操作」を強め、「デジタル独裁」という新たな政治体制を生み出すおそれです。監視が今迄のような外面的な行動だけでなく、内面、つまり感情、欲望、思考等までが監視し心理的に操作することも可能になります。もう既に、生成AIに悩みを打ち明けたり相談したりしている人がいるそうですので、内面の監視はやる気があるかどうかだけの問題のようですね。
又、ハラリは、AIの発展による自動化が人から仕事を奪うことを危惧しています。自動化の波は過去にもありましたが、過去の波では特定の種類の労働が不要になる一方で新たな種類の労働を創出しました。しかし、AIとロボット技術の発展はあらゆる種類の労働を代替する可能性を持っている、としています。富の偏在を解決できるか否かが大問題となります。
そして、AIの発展は、民主主義に大きな影響を与えそうです。民主主義が機能するには、市民が共通の事実に基づいて議論し合意形成ができる「公共圏」(例えば、新聞、テレビ等)が不可欠ですが、この状況は既にSNS等により根本的に変わりつつあります。AIはそういう「公共圏」を解体し、民主的な意思決定の前提条件を脅かしている、としています。 現在のいくつかの国の状況を見るとまさにその方向に向かって進んでいる感じがしますね。
なお、ハラリは、AIの発展は、民主主義の危機でもあるが民主主義を刷新する機会ともなる、と言っているそうです。そのためには、人間というものとどう捉え直すか、AIとどのような関係性を築くかを課題としているようです。
以上、少し整理すると、なすべきこととして「富の再分配メカニズム」の構築、「労働の価値と意味の再定義」、「民主主義の刷新」等々が挙げられており、ハラリが人間に期待を寄せるその根拠は、「物語を創造し共有する能力」、「共感と社会的知性」、「自己反省と倫理的判断」等の能力を持つ故だそうです。