「未来は決まっており、自分の意志など存在しない。~心理学的決定論~」妹尾武治(光文社新書 2021)
あらかじめ注意
この本を紹介しているいくつかのサイトに、「心理学、生理学、脳科学、量子論、人工知能、仏教、哲学、アート、文学、サブカルを横断し、世界の秘密に挑む。気鋭の心理学者による“トンデモ本”」とありますので、一見、この本は怪しげなやつに見えますし、タイトルそれ自身にも売らんかなの姿勢が見えないでもありませんが、本文のかなりの部分、まともな本だと私は感じています。未だ定まっていない理論については著者はその旨をきちんと書いているようです。
又、「あなたが本書を手にすることは、138億年前から決まっていた」という、いかにもウソっぽい表現もありますが、これは心理学的決定論(人間の意志や行動がその人の外的要因によって決まる、という考え方)に古典物理学を組み合わせてみると、原理的にはそうなる、というだけの、単なるキャッチコピーに過ぎないと思われます。実際には、量子力学では必ず不確定要素がありますので、現在のことも完全には分かりませんし、たとえ現在のすべての情報が分かっていたとしても、将来はとどんどんあいまいになっていきます。その辺りは目をつぶっておおらかに、ね、分かってね、という感じでしょうか。
それから、もう一つの注意事項は、自由意志はない、といっても、哲学、心理学の根本的な問題だということです。日常生活、法律、経済の世界ではまったく影響がありません。普段の生活は、我々には自由意志があることを前提に成り立っています。
本の内容
この本は「自由意志はない」ということを読者の皆さんに納得してもらうための本だと書いてあります。自由意志がない、というのはかなり過激に聞こえるかもしれません。又、意志という言葉もどう定義するかという点で微妙ではあります。しかしこの本を読むと、自由意志がないという意味がまんざらウソでもない、と感じられるようになるだろうと思います。又、自由意志がない、ということの意味がわかると、日常の意外な状況で、なるほど、と納得するような場面に出くわすようになります。
自由意志がない、という点について少し書いておきます。私達には自由意志はない、という説はそう突拍子もない、というわけでもなくて、わたしたちの思考についてどんどん突き詰めていくと、どうやら自由意志はない、としか考えられなくなってくる、というものです。哲学、心理学・脳科学、仏教など様々な分野で同じ様な結論を述べる人が多くいます。その結論は、私達が自由に判断して決断をしているというのは、どうやら幻想、つまり、自分自身でそう思い込んでいるだけかもしれないということのようです。それを突き詰めると、私達は今までの経験と現在の外部の状況に従い、決断し行動していることになります。これが、心理学的決定論です。詳細は、本書を読んでください。あるいは、心理学、哲学の本などを覗いてみてください。又、私も、自由意志がない、ということについてこのブログの別の記事「私達は自動機械か」に書いたことがあります。参考にしてください。
なお、量子力学に関する話題等、そのまま信じるのはちょっと怪しげな部分もあります。著者自身も様々な説がある旨を書いている場合もあり、記述のすべてが正しいとは思わないほうがよさそうです。
目次
以下に、この本の各章の表題を書いておきます。
自由意志と決定論と
暴走する脳は自分の意志では止められない
AI
そもそも人間の知っている世界とは?―知覚について
何が現実か?唯識、夢、VR、二次元
量子論
意識の科学の歴史
意識の正体
ベルクソン哲学にヒントが!
ベクションと心理学的決定論
マルクス・ガブリエルの新実在論
アートによる試み(妹尾の場合)
Cutting Edgeな時代に生きる